パソコンに始まってオープンシステム、RDBMS、インターネットとパラダイムシフトが起きるたびに、信頼性やセキュリティを持ち出して新技術をおもちゃ扱いした人たちは皆退場して行った。今クラウドをおもちゃ扱いする人たちは、これから退場する人たちである。
この事を改めて強く感じたのは、Googleが昨年3月に発表した "Datacenter as a computer"が翻訳され「Googleクラウドの核心」として発刊されたので早速読んだからです。
リッテル上席研究員(東大助教授)の太田さんの例えでいうと、水道のユーザーインターフェースは蛇口と排水溝だけだが、背後にはダムから浄水設備、水道配管、課金メータ、下水道、下水処理設備等膨大なインフラから成り立っているのと同様に、シンプルなWEBユーザーインターフェースだが、背後に膨大な仕組みで成り立っているのがクラウドということになりますが、本書はまさにその膨大の仕組みが、どのように作られているかが解説されています。
アプリケーションがデータセンターの設計を変え、IT業界構造を変える
本書でWSC (Warehouse Scale Computing)と呼んでいるものは、単に数万台のコンピュータを倉庫に詰め込んだものではありません。WEBアプリケーションやHadoop等の分散処理ソフトウェアによって、使用するハードウェアを均質化し、冷却設備や電源設備から建屋まで、電力あたりの処理能力を最大化した新しいプラットフォームがWSCです。そしてそれは決して規模だけが競争力ではなく、細かな電力当たりの処理効率改善の積み重ね(プロセッサやメモリ、ディスク、電源部等の部品単位での見直し)である事がよく分かります。
10年前までは、乱暴にいえばHW>SW>設備>電力という順で高額だったコストが、現在では電力>設備>HW>SW(オープンソース)という構造に変化し、処理コストは限りなく消費電力+使用通信帯域課金に近づいて行くと考えられます。
つまりWSCで提供出来るものは、メインフレームやハイエンドUNIXサーバとNAS/SAN共有ストレージが入れ混じったデータセンターでは太刀打ち出来ないレベルの電力あたりの処理能力であり、直接的にいえば破壊的コストで処理能力を提供できるわけです。
従来型アーキテクチャのアプリケーションでは、この破壊的コストパフォーマンスを享受出来ないことが明白であり、この新しいアーキテクチャを活用出来る企業が生き残れるのは間違いないでしょう。
ここでいう「クラウド」は広義のクラウドサービスではなく、スケールアウトする分散処理技術としてのクラウドのことです。サービスとしてのクラウドは以前取り上げたようにいくつかの利点がありますが、クラウドでないと実現出来ないキラーアプリケーションというのは実はあまり無いのが現実でした。
しかし昨年秋に開催されたHadoop World 2009から、データウェアハウス、データ分析にクラウド技術を採用すると今まで不可能であった高速大量データ分析が可能になることが注目され始めたようです。VISAやチャイナテレコム、JPモーガンなどがHadoop MapReduceのようなNoSQLデータベースの実用化を始めている事が発表され、国内でもヤフーや楽天での実績が出始めています。
データウェアハウス(ビジネスインテリジェンス)の分野では20年以上前からテラデータ、Oracle、最近ではNeteezaやSun/Oracle Exadataなどの、SQLでの大量データ処理に特化してきた高価なシステムが必要でした。しかし近年のデータ量の爆発的増大に答えたくともユーザーはこれ以上高価な投資はできないので、保存期間を短くしたりサマリーに集約したりしているのが現状でしょう。
Clouderaのブログで紹介された欧州最大のターゲティング広告プラットフォームのnugg.adの事例では、オープンソースのCloudera Hadoop CDH1 ディストリビューションを採用し、Opscodeの Chef を用いたプロビジョニングを行っています。サーバー3台でのスモールスタートから始め、今では計36コア、8TBのディスクのクラスタで処理、以前では5日かかった処理時間を1時間に短縮し、これまで提供が考えられなかったような付加価値サービスが可能となり大きな投資対効果を実現しています。
このようにペタバイトクラスの超大規模データウェアハウスではなくとも、データ分析を競争力としたい先進ユーザーは、新たな選択肢としてクラウド技術を活用したNoSQLデータウェアハウスを検討し始めています。この分野は当分のあいだ目が離せそうにありません。
角川ホールディングス会長の角川歴彦氏の著作「クラウド時代と<クール革命>」が3月10日発売に先駆けて3月10日まで期間限定で無料全文公開されましたので早速立ち読みしてみました。
昨年からあらゆるところで「クラウド」の大合唱なので、また畑違いの人が売り文句で使っているだけかと思いきや、片方善治先生が監修されており技術面ではほぼ正確かつ最新の情報になっています。興味深いのは、メディア/コンテンツ業界の経営者としての現状の認識が非常に危機感が高い事です。
改めて気づかされましたが、メディアはグーテンベルグから始まり、TV、インターネットと技術の発明に依存してきていたのにも関わらず、常に新しい技術に関しては反発か無視しかしてこなかった歴史があります。AppleがiPhone/iPodとiTunes Storeで音楽流通を破壊し、今度はApple/iPad, Amazon/Kindleなどが書籍流通を破壊しようとしている今、「ユーチューブはコミケ」ではないかと直感し、メディア/コンテンツ業界の経営者として積極的に取り込んでいこうとする角川氏の考えには共感しました。
そして角川氏は2014年には21世紀の産業革命である「クラウド革命」が実現すると予想、Amazon, Apple, Google, Microsoftなどが1社か2社の勝者の座を巡ってサバイバル競争が始まっているとしています。また、「ただ重要な変化の本質は大衆の情報機器を使い回す能力の向上ではなく、大衆自身の意識の変化だ。もはや大衆はリテラシーを問われるだけの一方的な消費者で はない。積極的な参加者であり、コンテンツの創造者であり、インフラ構成の一翼を担うケースさえある。この「参加する大衆」の登場がIT情報産業だけでな く、あらゆるビジネスや社会全体に大きなインパクトを与えているのだ。」と続けます。
技術のガラパゴス現象と文化の独自性についての解釈の混乱、日本と米国の多様性の許容度の違いなどについては若干違和感はありましたが、クラウド・コンピューティングは次世代情報インフラであり、IT投資が産業界にとって大きくなりすぎて限界に来ている事や、消費者や企業のITに対する購買行動が変わりつつあるという点については、私も賛同します。
この点についてはまた改めて掘り下げたいと思いますが、「クラウド」現象の実態と社会的インパクトを知りたい方には一読をお勧めします。
Amazonといっても通販の方ではなく、EC2やS3クラウドサービスのAWS(Amazon Web Service)のほうです。
複数の人から噂を聞いたのですが、もし本当なら日本のデータセンター業者にはSalesForceやGoogle Appsより大きなインパクトのある黒船となりそうです。今まで英語の壁と、ドル建てカード決済のみ(1万ドル/月額以下の場合)と仕事では使いづらかったのですが、日本語サポートと、国内通貨決済、請求書ベースになるだけでも、国内企業の利用が進むと思います。
さらにKindleサービスを日本でも展開するためにも国内でデータセンターを開設すれば、国内データセンター各社も生き残りをかけて大競争になる事は間違いありません。国内データセンターサービスはここのところサービス内容と価格が高止まりしていただけに、ユーザーとしては大競争になる事は歓迎されます。
しかしAWSの日本進出は、単に価格だけではなく従来の国内IT業界のビジネスモデル、流通構造さえ破壊するのではないかというのが私の考えです。つまり、AppleがiPhoneとiTunes Storeで音楽/ビデオの流通構造を変えてしまったように、AWSとAMI(Amazon Machine Image)でソフトウェア流通の流れを変えてしまうのではないでしょうか?
実際、EC2で必要なAMIを選んでサーバーをたてたり、ストレージを作ったりする事は驚くほど簡単で安く(本当に小遣い程度で開始出来ます)、お金さえ払えばクリックだけで数千サーバー/ペタバイトストレージまで大規模に拡張できる便利さは、日本のユーザーにもすぐに受けいられるのではないでしょうか?
規模によるコストメリットで国内各社がGoogleやAmazonに対抗する事はほぼ不可能ですが、そこであきらめるのではなく日本企業にがんばって欲しいのは、GoogleやAmazonが成長しているのはコストメリットではなく独創的なビジネスモデルとそれを実装出来る技術力であり、それを超える事は決して不可能ではないと思うからです。
クラウドサービスは言葉先行で実態が伴っていないもので、セキュリティ面での問題もまた改めて取り上げたいと思っていますがいろいろ懸念点があるものです。もしAWSが日本に来ても黒船来襲として短絡的な反応をするのではなく、大きなチャンスとしてどうすればお客様によりよいものを提供出来るかを考えていきたいと思います。
そろそろ世の中の「クラウド」話も出尽くしてきた感があるので、この辺りで私なりに整理したいと思います。昨年からの「クラウド」の大合唱はIT関連で久々の流行語大賞のような気がしますが、これだけ言われるという事は単なるバズワードではなく、構造変化の底流があるように思います。
まずは、米国 NIST(National Institute of Standards and Technology:国立標準技術研究所)の定義から。“The NIST Definition of Cloud Computing” Authors: Peter Mell and Tim Grance, Version 15, 10-7-09 ( http://csrc.nist.gov/groups/SNS/cloud-computing/ )
『クラウド・コンピューティングとは、(利用者にとって)最小限の管理労力、あるいはサービス提供者とのやりとりで、迅速に利用開始あるいは利用解除できる構成変更可能な計算機要素(例えば、ネットワーク、サーバ、ストレージ、アプリケーション、サービス)からなる共有資源に対して簡便かつ要求に即応できる(オンデマンド)ネットワークアクセスを可能にするモデルである。』
クラウド・コンピューティングが満たすべき5つの条件
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On-demand self-service オンデマンド・セルフサービス | ユーザー自身が提供者の手をわずらわせずに、必要に応じてコンピューティング資源を利用できる。 |
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Resource pooling: Location independence リソースのプーリング | コンピューティング資源がプーリングされており、必要に応じて割り当て・解放可能になっている。ユーザーは物理的な場所については意識する必要がない。 |
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Rapid elasticity 迅速な弾力的拡大・縮小 | ユーザーの必要に応じて瞬時に処理能力を拡大したり縮小できる。 |
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Measured service 計測されたサービス | リソースの使用量が自動的に計測され、最適化される。また提供者だけでなくユーザーからも監視、コントロール、レポートが可能。 |
これだけでは今ひとつピンとこないしこの条件に当てはまらないものも「クラウド」を名乗っていますので、私なりの「広義のクラウド」を定義したものが、下図のような従来のASPやSaaSまで含めてのサービス基盤です。これだと、世の中の「クラウド」サービスはほとんど当てはまると思います。(自社所有のいわゆるプライベートクラウドは、ここでは論じません)
しかし、従来のASPやSaaSになかった「クラウド」の大きな特徴は、
1.超スケーラビリティ(数十万ユーザー、数千ノード、数PB以上)
2.数分で立ち上げられ、数分でやめられる、リアルタイムオンデマンドサービス
3.完全従量課金、使わなかったら払わなくて良い
の3点です。
1.の超スケーラビリティは一般企業の業務ではあまり関係ないかもしれませんが、2.3.はユーザー企業の購買行動に大きな変化をもたらします。つまりこれまでは企業で何らかのシステムを使い始めるためには、少なくとも数ヶ月と数百万円くらいは必要だったのが、数日で数千円からで可能になり、不要だとわかったらすぐやめられるようになった訳です。
もちろん企業に「クラウド」が普及するためには、セキュリティやガバナンスなどまだまだ足りないピースがありますが、サービスプロバイダにとっては数分で顧客を獲得出来る代わりに数分で失う事にもなり、ソフトウェアベンダーにとっては使わなくても使用料金を払わなければいけなかったのが当たり前だったのが、使わなかったら払わなくて良いのが当たり前の時代がやってきます。
このようにユーザーのスイッチコストが限りなく小さくなっていく方向は、OSS(オープンソースソフトウェア)の普及によってさらに加速すると考えられます。また、Hadoop MapReduceのようなクラウド技術によってこれまで不可能であった大量高速データ処理が可能になったように、「クラウド」でないとできない事はOSSが主体になってきています。
AmazonやGoogleなど本来ITベンダーではない企業が「クラウド」とOSSをリードしていることも、彼らが本業のITインフラコストがどんどんふくれあがる事を抑制するために真剣に考え続けた結論が、他の企業にオープンし共有する戦略だと考えられます。この結果「クラウド」とOSSはこれまでのIT業界の地殻変動を起こし、ユーザーを囲い込むのではなくユーザーにとっての本当の価値を共有できるベンダーが生き残っていくのではないでしょうか?


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