オープンソースチケット管理システム OTRSからOTOBO/Znunyへ

オープンソースのチケット管理システムとしては、ドイツのOTRS AG社が開発するOTRS (Open-source Ticket Request System)が最も有名でコミュニティも世界的に活発で、日本でも導入事例がたくさんありました。
 
2018年4月、OTRS AG社は製品戦略を変更し、次のバージョンOTRS7から、商用(有償)版を“OTRS”、OSS(無償)版を“((OTRS)) Community Edition”というブランドに変更すると同時に、OSS版は商用版の新版を2年遅れで実装することを発表しました。
ここまでは、いわゆる「コマーシャル・オープンソース」製品としてはよくある話で、OSSのマネタイズ戦略としてはいたしかないことかもしれません。
 
ところが2020年12月23日、OTRS AG社はOSS版のOTRS7のサポートを2021年1月1日から停止すると発表しました。この発表は突然であり、しかも発表から年末年始を挟んで8日後に停止するという暴挙で、サポートベンダーを含むコミュニティから困惑と怒りが巻き起こったようです。
 
そしてOTRS6まではGPLライセンスの元で ソース公開は続けられていますがダウンロードサイトは終了したため、閉じています。OTRS7以降はプロプライエタリライセンスとなりオープンソース製品ではなくなり、OSS版のユーザーは商用版を購入するか、別製品に切り替えるかを迫られました。
この辺りの事情は、この記事に詳しく書かれています。
 

フォークの登場

OTRS AG社の決定は唐突ではあるものの彼らの経営判断であり、コミュニティでは覆すことはできませんでした。しかし、OSS版OTRS6をフォークし拡張する製品が登場することにより、OSS版のユーザーはもう一つの選択肢を持つことができました。こういうことがあるのがオープンソースの一つの美点だと思います。
2020年7月にOTOBO、2021年1月にZnunyが誕生しました。
 
OTOBOは、2004年に最初の従業員として当時のOTRSGmbH(現在のOTRS AG)に加わり、2011年に退職するまでサポートと内部ITを担当していたStefan Rotherが創業した
ROTHER OSS GmbHによって開発され、有償サポートも提供しています。
特徴は完全に再設計された顧客インターフェースのモダンな外観です。
 
Znunyは、OTRS.orgのファウンダーの一人でありOTRS AG社のCTOであったMartin Edenhoferが2012年に創業したZnuny GmbH社が開発しており、こちらも有償サポートも提供しています。

国内でのサポート状況

国内では最も古くからOTRSをサポートしている株式会社アイオーアーキテクトがOTOBO/Znunyをサポートしており、以下アイオーアーキテクトさんのラボノートから引用します。
 
OTOBO, Znuny共に機能面ではほとんどOTRSと同じです。ただし今後はおそらくそれぞれ独自の進化のほうにシフトしていくと考えられます。
 
一応言及しておくと、OTOBOとZnunyの仲が悪いということはありません。現にOTOBOの一部にはZnuny由来の機能が存在しています。別々にフォークしながらいいところは取り込んでいくといった、OSSらしい良い循環が出来ているように見えます。
 
また、((OTRS)) Community Edition 6からの移行サービスも提供されています。
OTOBO/Znunyの製品紹介は、こちらをご覧ください。
日本語でのインストール手順も公開されていますので、OTOBOZnunyをご参照ください。
 

ソフトウェアのサポートについて

弊社もオープンソースソフトウェアの商用利用をサポートしている立場として、OTRSのように提供ベンダーの事情によってメンテナンスが止まるリスクは常に考えています。
しかしある程度利用されてコミュニティが成立しているオープンソースでは、プロジェクトの継続ができなくなっても派生プロジェクトが立ち上がることに期待できます。
 
開発会社が買収されて製品をディスコンにすることが日常茶飯事のソフトウェア業界においては、プロプライエタリな商用製品よりオープンソースの方が優位ではないでしょうか?